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最高裁判所第二小法廷 昭和31年(オ)917号 判決

主文

一、被上告人山田辰男に対する本件上告を棄却する。

同被上告人に対する上告費用は上告人の負担とする。

二、原判決中被上告人山田光男の勝訴の部分を破棄し、第一審判決主文第二、五項以外の部分中同被上告人の勝訴の部分を取り消し、同被上告人の請求を棄却する。

同被上告人と上告人との間に生じた訴訟の総費用は同被上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について。

一、原判決は、判示甲の板垣の存する一七二番一九の土地の東の部分約一五坪は被上告人光男が所有者小谷達郎から賃借し耕作占有しているのであるが、この賃借については、農地関係法令所定の許可を得ていないから無効であるけれども、占有権がある以上民法一九八条により妨害排除を求める権利があり上告人の設置した右板垣の撤去を求めることができると判示する。しかし、被上告人光男は終始賃借権に基き右板垣の撤去を求めていることは記録上明白であり、本訴は占有の訴ではないことも明らかであるにかかわらず、同被上告人主張の賃借権を否定しながら、同被上告人の主張していない占有権を理由として上告人に右板垣の撤去を命じたことは当事者の申立てざる事項につき判決をした違法があるものといわねばならない。

二、原判決は、判示一七二番一九の農地は被上告人辰男の先代が明治年間から賃借して耕作し来り、被上告人辰男においてこれを承継し、現に賃借権を有するものであるが、一七二番七、一九、二〇はいずれも小谷達郎所有の同番三の土地から分筆されたもので、上告人が右一七二番二〇、七の土地の所有権を取得した結果、辰男が賃借権を有する右一七二番一九は袋地となり右一七二番二〇及び七の土地を通行しなければ他に公道に出ずることができなくなつたものであるから、被上告人辰男は民法二一三条により上告人所有の一七二番七の土地につき通行権があり、且つ、これを妨害する判示乙の板垣の撤去を認める権利があると判示する。原判決の挙示する証拠によれば右認定は首肯することができ、この点に関する上告人の所論は結局原審の適法にした事実認定を非難するか、独自の見解に立脚して原判決を非難するものであつて採用し得ない。

しかし、原判決が右の如く賃借土地の引渡を受けて現に賃借権を有する被上告人辰男のために民法二一三条を準用してその隣接する乙板垣の存する土地につき通行権を認めたことは是認できるけれども、単なる占有者に対して右法条を準用することは許されないものと解するを相当とするから、一七二番一九の東の部分の土地の単なる占有者に過ぎない被上告人光男に対しても、乙板垣の存する土地につき通行権を認め、かつ右板垣の撤去を求める権利があると判断したことは違法であるといわなければならない。

三、次に判示丙の板垣の存する(A)(B)線の部分は上告人が小谷達郎から買受けた部分ではなく、右の部分については被上告人辰男が賃借権を有するのであるから上告人は右丙の板垣を撤去すべきものであるとした原判示は挙示の証拠に照し首肯できるところであり、論旨は原判決の適法にした事実認定を非難するものであつて採るを得ない。

四、なお、被上告人光男の本件訴訟代理の委任につき、所論の違法ありと認むべき証拠がないから所論は採るを得ない。また、上告人及び被上告人辰男間の訴訟費用の負担については同被上告人に対する上告の理由のない以上独立して不服申立をなし得ないものであるからこの点に関する所論もを採るを得ない。

五、以上の如く被上告人辰男に対する本件上告は理由がなく棄却すべきものであるが、被上告人光男に対する本件上告は理由があり、原判決及び第一審判決中被上告人光男勝訴の部分を破棄、取消しのうえ、同被上告人の請求を棄却すべきものと認め、被上告人辰男に対する上告については民訴三九六条、三八四条、八九条、九五条に則り、被上告人光男に対する上告については民訴四〇八条、八九条、九六条に則り、全裁判官一致の意見により主文の如く判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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